文繰文庫 ショートショート ブログ版

フミクリフミクラはショートショートのはっちゃけ文庫。文部科学雀の朝十(朝の十分読書習慣)運動を応援しています

2009-11

ショートショート 899

●破れ窓

「なあ、破れ窓理論って知ってるか?」
 会社帰り、ふと思い出して友人に訊くと、
「ん〜?」
 怪訝そうな顔。優位を感じておれは続けた。
「破れた窓を放置しておくと、そこから連鎖的に犯罪が起こって
治安が悪くなるって話だ」
「……で?」
「え?」
「で、それが、なに?」
 思わぬ言葉に答えあぐねて、
「いや、それだけ」
 おれが言うと、
「ふーん」
 つまらなそうな声を出した。
「それだと、治安を良くするにはどうすりゃいいんだ?」
「そりゃあ、小さな犯罪から取り締まればいいんだよ」
「じゃあ、今の治安が悪いのは、どの小さな犯罪のせいなんだ?」
「そんなのわかるか。それこそたくさんの積み重ねのせいだろ」
 友人は小さなためいきをつく。
「それじゃ結局なにも説明してないじゃないか。
そんなどこの馬の骨とも知らない外国の学者一人が
唱えたものじゃなくても、
この国には名も無き偉大な先人たちが残した、
もっと優れた言葉があるってのに。この外国かぶれめ」
「なんなんだよ」
「『うそつきはどろぼうの始まり』ってな」
 逆におれがためいき。
「それは個人の話だろ」
「違う。うそが堂々と話されることによって、
真実と真実を語ることの価値が下がる。
それが道徳の低下を招き、犯罪を起こし、隠しやすい環境を作る。
それにより軽犯罪が増え、治安が悪化。
がらの悪い相手をたしなめる地域の力も減り、
空き巣や強盗などの凶悪犯罪を起こす土壌を作るんだ」

 ……そう言われるとそんな気もするが、
破れ窓理論の説明ほぼそのままじゃないか。
「じゃ、それで言うと、今の治安が悪いのはどのうそのせいなんだ?」
 訊ねると、
「国の恥、政治屋だよ」
「じゃあ、治安を良くするにはどうすればいいんだって?」
「そんなの決まってる」
 うんざりしたような顔で小さく肩をすくめて。
「嘘つくだけしか能が無い、政治屋どもを
かたっぱしから処分すればいいんだよ」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 897

●Office Automation

 休み明け、会社に行くとそれぞれの席にパソコンが置いてあった。
「どっ、どうしたんですか、これ?」
 思わず言うと社長は得意げに笑って、
「いいだろう。うちもOA化してみたぞ」
 まあ、確かに便利にはなるだろうけど。
他のおじさんたち(社長も含めて)は使えるのかな?
 ……と思っていると。

「悪い、これどうやるの?」
「ちょっと教えてくれない?」
 ひっきりなしにわたしを呼ぶ声。
 社長にいたっては、
「なんかよくわかんないし、印刷して紙でくれないかな」
 すでに使うことすらあきらめた始末。
 ……ちがう……。
 わたしは心で叫んだ。
 ――こんなの、こんなのOAじゃない!

 ・オーエー [ OA ]
 Office Automation(オフィス・オートメーション)の略。
 事務作業において、従来の手段であった紙の上での
人力頼みの図表作成・手計算などをコンピュータ類を使用して電子化し、
一部を自動処理化することで効率化を図ること。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 896

●湧出と流出

「こんなアンケートで車があたるなんてすごいねえ」
 懸賞に応募するのがもはや趣味となった夫婦が
アンケートはがきを投函しながらつぶやいた。

「たかが車一台ちらつかせただけで何万人もが
よろこんで個人情報を自分から晒すとはすごいもんだ」
 募集した会社で担当がつぶやいた。
「あとはこれをそれぞれ売り払っちまえば、
車代金払ってもおつりがくるのにな」
「まさか、売るつもりなんですか?」
 同じ部署の人間が訊ねると、
「あたりまえだろ、もともとそのつもりでまいた餌だ。
ばれたらうっかり流出したことにすりゃいいさ」
「でも、違法ですよ?」
 すると訳知り顔で首を振り、
「おいおい、金は湧出するもんじゃないんだぞ?」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 895

●文化陵辱

 熊は死んで肉と皮を残すが、
人が死んで残せるものは名だけであると
父母やその父母たちからずっと聞かされてきた。
だからこそ偉大な先人たちの名は語り継いできたし、
自分の名前を汚さないように生きるようにしてきた。

 名前はその人だけの大切なもの。
他人と同じ名前をつけることはその人の運を奪い、
運命を同じくしてしまうからとわたしたちは避けてきたんだ。
 でもある日、テレビを見ていたら同胞でもない人間が
わたしたちの言葉を使って名宣った。
「ピリカです」
 そしてまたある日、別の人間が
わたしたちの言葉を使って得意げに名宣った。
「ピリカです」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 894

●脱魂落魄

 夏のまんなか、八月三日。
 その国では『八月三日計画』と名づけられた行動が開始された。
 かつての敗戦国の汚名をそそぎ、独立を宣言。
法律も新憲法などを施行し、八月三日はその記憶を後世に残すために
国家の祝日として制定された。
 しかし翌年。休みは連休にする法律の影響を受けて
八月三日自体は休みにならず、その日を含む週の月曜日が休みとなった。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 893

●マイナスをプラス

「あ〜、くそう」
 荷物を計りに載せたら思わず声がでて、
「なに、どったの?」
 弟が訊いてきた。
「いやさ、たかが五十グラムはみでたせいで、
宅急便の値段が結構上がるんだ」
「五十グラム減らせばいいわけ?」
 ふらりと出て行くと、手にはでかいビニール袋とスプレー缶。
 袋で荷物をくるむと、中にスプレーを吹き込み始めた。
「なんだそれ?」
 訊くと弟は答える。
「ヘリウム」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 892

●愛と不思議

「最近、すごく変なんだ」
 電話で友達が言った。
「いつも会ってるのに彼がどんどん好きになってく。
会えないと苦しくて、会ってても苦しくて。
好きになるって、すごく不思議」
 ふぅ、と彼女は甘いためいきをつく。
「でも、一番の不思議は」
 思わずわたしは言っていた。
「結婚して半年もたてば、そんな気持ちのかけらすら
どっかに行って見つからなくなることだよ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 891

●そういう作風

 テレビを見ていたら、有名なミステリーの作家が
ビルの屋上で死んでいるのが見つかったというニュースが流れた。
 屋上の扉には鍵がかかっており、隣のビルには本人の遺書。
飛び降り自殺だろうと警察は言う。
 ……と。
「いや、違う」
 一緒に見ていた夫がつぶやいた。
「え?」
 聞き返すわたしに真顔で振り向き、
「これは自殺に見せかけた、巧妙な殺人事件だ!」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 890

●カタカナ語

「この国はかっこ悪いね。すぐにニートで滅ぶよ」
 と、クラスの留学生があざ笑うような目で言った。
 ニート……就労逃避青年の事か。
「うん、そうだね。なら君の国はいずれミートで滅ぶだろうね」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 889

●ひとつぶの星空

 休日の午前二時過ぎ、友人から電話がかかってきた。
「なあ、すごいぞ! 大発見だ」
 興奮した声。
「なんだ、また彗星でも発見したのか?」
「いや、違うよ」
 ごくりとつばをのみこんで。
「空にはこんなにたくさんの星がある。
その中のこの星にだって数え切れない人がいる。
毎日何百人とすれ違う中で、誰かと誰かが出会ってひかれあって、
お互い好きになるってすごいことじゃないか?」
「あ〜、おまえと彼女な」
「なんだよ、驚かないのか?」」
 なによりお前の変わりようが驚きだけどな。

「だって、ほとんど奇跡だぞ」
 もどかしいような、じれったいような言葉。
「ああ、確かにな」
 だからこそ、そんなもんおれの身に起こったことはないんだし。
「なんだよ、なんでわかんないかな」
「いや、わかってるからそのへんで勘弁してくれ。……さもなきゃ」
「さもなきゃ?」
「――泣くぞ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 888

●離乳食

 はじめてうちの軒先にツバメが巣を作ってからというもの、
娘はかいがいしくその世話をするようになった。……らしい。
すくなくとも本人の中では。
 見守り続けてどれくらいたった頃か、
子ツバメたちが巣のふちで羽をばたつかせはじめる。
「もうそろそろ、すだちの時期かもね」
 わたしが言うと、
「ええ? まだ秋じゃないのに?」
 驚いた顔が見上げた。
「あはは。そんなに長くいたらツバメも育ちすぎちゃうよ」
「え〜、どうしよう……」
 困ったような顔をする娘。
「だいじょうぶ。さっぱりと見送ってあげよう?」
 小さな頭をぐしぐし撫でて、小さな命を見つめる。

 それから何日かすると、
巣のそばに茶色いなにかの乗った踏み台が置いてあるのに気がついた。
 ……なんだろう?
 手を伸ばすと、
「だめー! ツバメが食べるんだから」
 どこかから娘の声。
「え? たべもの?」
 顔を近づけると、しわしわで茶ばんではいるけれど、
ミカンみたいなものらしい。
「なにこれ?」
 訊ねると、
「すだち」
 残念そうな声で。
「……こんなのしか見つからなかった」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 887

●ただより高い物

 まだ独身のともだちとひさしぶりに会っておしゃべり。
「あ、そうそう」
 そのうちふと思い出して、わたしは言った。
「うちのところの共同のごみ捨て場、
心無い人たちが捨てかた汚くていつもいやだったんだけどね、
この前見たら若い奥さんが黙々と片付けてて」
「うん」
「そこで捨てるのもなんだか悪くてしばらくしてから行ったら、
ずいぶんきれいになってて気持ちよく捨てられたんだ」
「へえ〜」
「あれを見たら、見習わなきゃいけないなあって思ったよ」
 すると、なぜか曇る友達の顔。
「で、見習ったの?」
 ぎくりとするわたしに、
「見習おうって気はほんとにあるの?」
 さらに追い討ち。
「それまでならちょっといい話だったのに、
それを見習う気がないのに『見習おうと思った』って言うのは
どういう意味? 『すてきな人を見習おうと思える、
心のきれいなわたし』でも演出したいの? 
……未来に投げっぱなしにするくらいなら、
『わたしも見習った』って過去で話してくれれば尊敬もできるのに」
 あきれたような冷たいような視線にうちのめされていると、
慈愛に満ちた視線で彼女は言った。
「まあ、気にしないで。思うだけはただだもんね」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 886

●私事と仕事と

「ん〜! 今日も一日、終わった〜!」
 仕事時間を終えて、着替えを終えた中年警官二人が伸びをした。
「さあて、今日で今週も終わりだ。仕事は忘れて私事を楽しまなきゃな」
 一人は車のキーを軽く回して、
「今日は飲むぞ! どうだ、一緒に?」
 するともう片方は、
「これから下着の観察だ」
 髪を整えながらのぞきこんでいた手鏡を軽く持ち上げて言った。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 884

●落差

 一国の指導者が、傾きかけた国の財政を立て直すために
とある王国の長に財政支援を求めると、
「ふむ」
 たくましい体つき、精悍な顔のその男はあごをなで、
「おっしゃるとおりの金額を用立てることは構いません」
 静かな声でそう言った。
「おお、ありがたい!」
 よろこびに飛びつくばかりの男だったが、
「ですが……」
 王は続ける。
「あなたにも痛みを受けてもらいましょう」
「と、おっしゃいますと?」
「あなたの奥さんと娘さんを一か月、
わたしの元でわたしの好きにさせていただきましょう」
 ――この男、いかに立派に見えても所詮は女めあてか。

 見た目と中身との落差に幻滅を覚えたが、
すぐさま自分の問題でもあることに思い至り、彼は悩んだ末、答えた。
「妻、だけなら」
 一か月後。
 国を発った彼の妻は家に戻り、荷物を降ろすと言った。
「ねえ、あなた。離婚しましょう」
「ど、どうした。……どんなに穢されても、おまえはおまえだ。
だいじょうぶだから」
 なぐさめようとする男をにらみつけ、
「なんであなたはそういう発想しかできないの!」
 男が聞いたこともない声で叫んだ。
「あの方はとても礼儀正しかった。一人の確固とした人間、
そして女性として敬いながら接してくれた。
常に国を愛し、国民なんてわけのわからないものじゃなく、
ひとりひとりの個人がどうあるべきかを考え、心を痛めてた。
なのに、あなたはどう? 自分のために税金を無駄に使い、
足りなくなれば改めもせずに無心して済まそうとする。
挙句の果てには自分の保身のためだけにわたしまで差し出す? 
あなたには何一つとして自分の痛みなんてないじゃない!」
 うろたえる男。
「な、なにを言うんだ。おまえがいない間、
どれだけ心を痛めていたと思うんだ。
眠れない日だって何日もあったんだぞ」
「それだけ? たった、それだけ? 
乱暴されると思いながら一人質草みたいに預けられて、
不安なまま過ごしたわたしと、それがおんなじ?」
 彼女はためいきより深い息を吐くと、つぶやいた。
「……あなたは人として、指導者として、男として最低。
あの国を知ってしまった今、その落差にもう耐えられそうにない」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 883

●痛みを知らない

「いってえな、ぶっころすぞ!」
 電車から降りる男が吠えると、
「ああ? てめえこそ殺すぞ」
 乗ろうとしていた男が吠え返した。
 急ぎ足で避けるように散っていく周りの中、
「許可!」
 一人出てきた男がすがすがしく声を出す。
「なんだてめえ」
 二人がにらむと、男はスーツの内ポケットから身分証を出して言った。
「国家許可判定士ですよ」
 とまどう男たちを目に写し、
「お二人の合意があることですし、国の許可の元、
お互いのお望みどおり殺しあっていただきます。
指を切り落とそうが、腕がもげようが、目をつぶそうが。
必ずどちらかが死ぬまでは続けていただきますが、よろしいですね?」
「ま、待てよ」
 片方の男は言う。
「こいつにも家族がいるだろうし、べつにそこまで」

「いいえ」
 判定士は手にした情報端末を確認し、応える。
「この方は今まで独身、こどもの頃から周りにあたりちらし、
高校生になってからは度重なる悪態に両親は自殺。
自分のまいた種で転々と職を変えるしかなく、
現在の職場でも態度と人柄の悪さから疎まれ続けています。
死んで喜ばれこそすれ、悲しむ人間はおりません。
 なお、あなたは酒癖の悪さから妻もこどもも別居中。
それに腹を立てたあなたは慰謝料も養育費も払わずに
自分のためだけに暮らしていますね。
立場を利用して不倫にもちこんだ女性は
こどもができたことで結婚の約束もふみにじり、捨てました。
むしろあなたが死ぬことで救われる方以外いないでしょう」
 冷静な目を男たちに向け、彼は言った。
「と、いうわけです。何の遠慮もいりません。
心ゆくまで殺しあってください」
「ふ、ふざけんな。だれがお前の言うとおりになんかするか」
「では、今さらやめるというのですか?」
 答えるもう片方の男。
「あ、あたありまえだ。気がそがれちまった」
 そして二人は目を合わせると、
「よかったな。今日は見逃してやらあ」
「おまえこそな。今日はかんべんしてやる」
 それを聞いて彼は言った。
「許可」

 振り向く二人。
「では、いつにするかおっしゃってください」
 男たちは汗をぬぐうと吐き捨てる。
「こんなやつ、二度と会わねえよ」
「そうだ、一生かかわるかって」
 走り出す背中を見ながら、彼はつぶやいた。
「許可」
 その顔には軽い笑みを浮かべて。
「……ま、わかってましたけどね」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

 | HOME |  »

FC2Ad

FC2ブログ

 

プロフィール

甘音(あまね)

Author:甘音(あまね)
めざせショートショート1050本!
いつだって全力疾走なのです。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ