文繰文庫 ショートショート ブログ版

フミクリフミクラはショートショートのはっちゃけ文庫。文部科学雀の朝十(朝の十分読書習慣)運動を応援しています

2017-08

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ショートショートl 1050

●あまね

 高校の頃お世話になって以来、わたしの師であり、
頼りでもあったおばあちゃん先生が老人ホームに入ってから一年。
 わたしも引っ越してしまいそうそう会えなくなってしまったけれど、
何かと用事を作っては顔を出しに行くときには
今までと変わらない穏やかな先生がいた。
 人間一度年を取ってしまえば流れる時間は緩やかになる。
すこしごたごたとしたけれど、このままこうして過ぎていくんだと
なんとなく思っていた。

 でも、ある日。
「もう、ここには来ないで欲しい」
 いつものような穏やかな顔から出たのは、思いもしない言葉。
「え、え? どうしてですか?」
「もうね、頭がいい感じにわけわかんなくなって来ちゃって、
本も物もすぐどっかいっちゃうんだ」
 あきらめたような軽い笑いで。
「ここに入れられたのだって、『お金を盗んだ』って
わたしが孫に言うからだっていうんだ。わたしは全然知らないけどね」
「え、でも、それなら……えと」
「怖いんだ」
 小さく頭を振り、
「知らないところで自分がどんどん壊れてくみたい。
生きてきた歴史もぽっかり抜け落ちて、いつか何がなくなったかも、
それが怖いことだってこともわからなくなると思う。
今は、それがすごく怖い」
「そんな」
 いつもどこか飄々としていた先生。その口から出るこんな話は、
わたしの頭から血の気をひかせていった。
「わたしは自分の歴史がなくなるのが怖い。
生きてきた証がなくなるのが怖い。
だから……わたしたちの名前、受け取ってもらえない?」
「え?」
 見ていられずにそらした目を上げると、
先生は寂しげにほほ笑んでいた。
「だいじょうぶ。年寄りがおかしくなって言ってるわけじゃない」
 どこか自虐的な言葉と笑い。
「え……だって、わたし、あんま師でもないし、これからもなれませんよ」
「それでいい。これは、わたしのわがまま。
この名を使おうと使うまいと、それでいい。
もともとはじめの人はなにかの先生で、
天地の理あまねく見せたまえ、と願って名宣ったみたい。
あの人が死ぬときにもらっただけだから
わたしもすべての人を知ってるわけじゃないけど……」
「でも……でも、そんな」
「重荷に思わないで。そんなたいしたものじゃない、
ただの民草のそよぐ音。でももしあなたが何かに迷うとき、
その背を押す力になってくれたらすごく嬉しい。
あなたがそれを思うとき、わたしも、わたしたちも
きっとそこにいるんだから」
「でも、そんな。先生は先生じゃなきゃ……」
 笑み。
「わかる。あなたが何を言いたいかも、たぶんわかるつもり。
でも、もうわたしに残る時間はそれほどないかもしれない。
だから、あなたの中のわたしはきれいでいさせて。
あなたが先生と呼ぶわたしを先生のままにしておいて」
 すりつぶされてなにかが出てしまいそうな胸の中、
言葉があふれてわたしは言った。
「嫌です! 本物をどけておきれいな記憶だけ残して終わろうなんて、
先生じゃないです」
 驚いた顔をしたけれど、先生はそれから悲しそうな、
それでもどこかいとおしそうな目でわたしを見た。
 元気な頃の先生なら。こんなに弱気じゃない先生なら、
その言葉できっと強い笑顔になるはずだった。
でも、そうならない。どこかですべてをあきらめている気がする。

「わたしは、また来ますよ」
 背を向け、扉に手をかける。
「いただいたこの名で何かをなし遂げたら……その時は。
これが成れの果てだって先生を笑いに来ますよ」
 震える唇からは揺れる声。笑ってみせたかったけど、
涙をこらえるだけで精一杯だった。
 扉を開け、出て行くわたしに先生は言う。
「ありがとう」
 悲しくて、悔しくて。
 わたしは震える唇をかみしめ、こらえきれない涙をこぼした。
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ショートショートl 1049

●きらいきらい。すき。

 心理学概論の授業を終え。一服しようと友人と喫煙所に行くと、
「ほんっとばかだよな。なんでも性欲に結び付けるとか、
おまえの方が精神病かっつーの」
「なんであれをありがたがるのか意味わかんねえよな」
 同じ授業帰りのやつらがすでにいて、
精神分析学の祖について耳障りに話しながらたばこをふかしていた。
「ああ、まったくだ」
 灰皿を囲むやつらを軽く押しのけてライターに火をおこし、
「最初に火を使おうとしたやつってのもとことんばかだよな。
いちいち使おうと考えなくたってこんなに簡単に使えるのに」
 たばこに移すと肺一杯に吸い込み、煙を思いっきり吐きつけた。
 むせる二人。やわなたばこにやわな頭か。

 多少気も晴れて、たばこを消してその場を後にすると、
「どうしたんだよ、めずらしい」
 友人が追いついて訊ねる。
「おまえだっていつも嫌いだ嫌いだって言ってんじゃないか」
「ああ、確かにな。でも……」
 ふとあごをさすり、考える。
「あんな風にけなされるのは、なんか許せないんだよな」

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ショートショートl 1048

●りえき。

「やあ、探したよ、母さん」
 たくましい若者が、建物に入ろうとする
派手な服の女性に声をかけた。
 振り向く女性は怪訝そうな顔で彼を見て、
「だれ?」
「まあ、見た目じゃわかんないだろうな。
でも、冬の寒い日、あんたが病院の保護装置に
捨てて行ったこどもだって言えば思い出すか?」
「え……」
 思わず声を漏らす女性。
「なにが赤ん坊用保護装置だ。
中絶や置き去りでこどもが死ぬのを防ぐ? 
中絶の痛手から母親を守る? あんなもん、
ていのいいごみ箱じゃないか。赤ん坊は麻酔なく割礼されようと、
元から泣き通しで覚えてない。
死だって死と実感することもなく死んでいくだろう。
おれは、そのほうがよかった。
なのにそれを助けて育てることになんの意味がある? 
……長かったよ、今まで。自分が親から
ごみのように捨てられたと思いながら生き続けるのはつらかったよ。
それに、あんたを見つけるまでに二十五年もかかったんだ」

 青年は言葉を吐き出すと拳を握り、女性を見つめて訴えた。
「なあ、教えてくれ。何を思ってあの日おれを捨てた? 
それについてどう思ってるんだよ」
 彼女は肩をすくめると、答える。
「もう十人以上も捨ててるし、そんな昔のこと言われたって
正直ぜんっぜん覚えてない」

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ショートショートl 1047

●きっちり。

 ビニール袋を手に持って公園のごみ箱の前で悩む若い女性。
「どうしたの?」
 通りがかった年配の女性が声をかけた。
「これ、捨てようと思うんですけどぉ。可燃ごみでいいんですかねぇ?」
「中身は?」
 若い女性が開いた袋の中には、生まれたばかりの赤ん坊。
「ばか言わないで! 赤ちゃんじゃない!」
 年配の女性は叫んだ。
「赤ちゃんは赤ちゃん用のごみ箱へ! もう常識でしょ」


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ショートショートl 1046

●ついてる?

「あ~、なんでこうついてないんだろ」
 電話の向こうで友達がため息をついた。
「今度はなに?」
「くだらない残業で終電逃して、
会社から家の駅までタクシー乗ったんだけどさ。
自転車に乗ろうとしたらパンクさせられてた」
「してた?」
 わたしが訊くと、
「させられてた」
 彼女は言った。
「ほんとだよ? 最初買って乗ってったら何日かでサドル汚されてさ。
なんとか消したら今度は切られて。カバー買ったらそれはがされて。
しかたなく新しいサドル買ってつけてもらったら
次の日にカバーがかごに入れられてさあ。そ
の後は後ろの光るところ割られて付け直したらもぎとられて。
そして昨日はパンクだよ?」
「うわ……めげそう」
「もー、めげきってるよ。家の物もいろいろ壊れるし、
会社じゃわたしだけ地雷踏むんだよ? あほな電話にあほな仕事。
上司はなんかわたしだけ目の仇にしていろいろ言ってくるし……。
なんでこうついてないんだろ」
 深いため息に、
「憑いてるからじゃない?」
 わたしは言った。
「いっそおはらいでも行ったほうがいいよ」
「え~。じゃあ、今度何かひどいこと起こったら一緒に行ってよ」
 ……冗談のつもりだったのに。
「うん、いいよ。何か起こったらね」

 そして次の週末。
「おはらい、行こ」
 友達から電話がかかってきた。
 いわしの頭も信心からって言うし、
それで気が晴れるならいいかと初詣のときに厄払いもすると
謳っていた神社を記憶から探して二人で向かった。
 そして鳥居をくぐり、階段をのぼり。境内に入ろうとしたときのこと。
「申しわけありませんが」
 目の前に立っていた神主さんらしい人が友達に頭を下げて言った。
「紹介状をお書きしますので、今はお帰り願えませんか」

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ショートショート 1045

●気まぐれ銀行

「そうだ、昨日は結構勝ったよ」
「パチンコ?」
「ああ」
 朝。始業時間前に用意をしていると、
前の席でおじさん二人が話し始めた。
「いくら勝ったんだ?」
「八万」
 ――八万?
「すごいですね。一晩でそんなに?」
 思わず口を出すと、得意げな顔で。
「ああ。パチンコ屋なんて銀行みたいなもんだ」
 そこへ横からおじさんの声。
「預金に比べて引き出せる金はやたら少ないし、
手数料がばか高い銀行だけどな」

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ショートショート 1044

●遊走地雷

「たとえば地雷原に踏み込んだことに気付いたとして。
一秒でも長く生き延びる方法はなんだと思う?」
 軽くいすをわたしの方に向けながら、先輩が訊いた。
「ええ? それは……動かなければいいんじゃないですか?」
「うん。だって普通の地雷は、ただそこに埋まってるだけだからね。
でも、それが自分から走ってくるとしたら?」
「気が気じゃないですね」
「うん。何もしなくてもやってくるからたちが悪い」

 と。
「ちょっと、勤務時間中に話してないでよ」
 後ろから室長が声をかけて歩いていった。
 『別に電話中じゃないんだし、それくらいいいじゃない』。
そんな表情が先輩の顔に浮かぶ。
「でも、あと十分。電話なくて終われればいいですよね」
 わたしが言うと、
「あ、ばか」
「え?」
 ポー! 目の前の電話が鳴った。
「あ~、あたっちゃったね」
 うう……。この時間で電話をとったら残業確定なのにぃ。
 いやいや手を伸ばす横で、先輩の声が聞こえた。
「気を抜いた瞬間、地雷が向こうからやってくる。
それがコールセンターの悲しい事実なんだなあ」


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ショートショート 1043

●おまつりの日々

 今日は近くの大きな神社で夏祭り。
 たいこに笛に、屋台にざわめき。
夜になるにつれて、見たこともないくらいに人が集まって、
熱気がだんだんに高まっていく。
あの空気、あのわくわく。普段田んぼと畑と山しかないこんな町の、
唯一と言っていいくらいの楽しみだ。
 だからせっかく友達と一緒にはっちゃけようと思ってたのに……。

「ねーえー、変じゃない? ほんとに変じゃない?」
 玄関までの廊下をおかあさんに押されながら
わたしは何度も振り返る。
「変じゃない、変じゃない。かわいいよ」
 どこか適当に聞こえるのは気のせい?
 玄関の鏡で見る浴衣のわたしは、
なんだか別人みたいで落ち着かない。
「こんな女の子っぽいの、絶対なんか言って笑われる~」
「なーに言ってるの。男の子たち、逆に見とれちゃうかもよ」
 見とれる……?
「ちょっ、ちょっと~! やめてよ」
 一気に頬が熱くなる。
 こんなわたしを見て、どう思うんだろう。
似合うって思ってくれるのかな――あいつ。
「ほらほら。あんまり待たせるのもかわいそうだよ」
「う、うん」
 げたを履き、扉に手をかけて。
「ほんとに変じゃない?」
「うんうん。ほら」
「じゃ、行ってくるね」

 がらがらと戸を開ければ、差し込んでくるお昼三時のまぶしい太陽。
 手でひさしを作りながら門柱を抜けると、
壁に寄りかかっていた男子たちが体を起こした。
「えと……おまたせ」
 つい顔をそらして、気恥ずかしさに立ちすくむわたしに、
「なんだよ、そんなかっこで行くつもりか?」
 あいつの声。
「え?」
 思わず振り向くと、シャツに半ズボンで釣りざおをもった三人が
驚いた顔でこっちを見ていた。
「今日、おま釣りに行くって言ったよな?」
 え? うそ……! なに、おま釣りって。釣り? 
お祭りじゃないの?
 おでこからじわじわと汗がにじんで、
腕が心臓に合わせるように震え出す。
 わたしは手を握りこんで、なんでもないように口を開いた。
「わ、わかってるよ。急いでたから普段着で出ちゃったんじゃない。
ちょっと待っててよね」
 わざとゆっくり玄関に入って――あわてて廊下に駆け上がった。
 ばかだ……ばかだ! なに勘違いしてたんだろ。
釣りに行くのをお祭りに行くんだと思っておめかしして。
 何でわからなかったんだろ。何で訊かなかったんだろ。
ばかばかばか! わたしのばか!
「どうしたの?」
 おかあさんの声に、こらえてた涙があふれてしまう。
「ごめんね、せっかく着せてもらったのに
お祭りじゃなかったんだって。いつもの服で行くね」
「え? なんなの?」
「いいから。脱ぐのはできるから」
 押し出すようにふすまを閉めて、一人泣きながら浴衣を脱いだ。
 帯をほどき、腕を抜き。横にたたんであった普段着に替えて、深呼吸。
 ――泣いちゃだめだ、泣いちゃだめ。
そもそもあんな女の子っぽいの、どうせわたしには似合わなかったんだ。
 鼻をすすり、目をぬぐい。
男子たちが気付かないように祈って外に出た。

「ごめんね、遅くなっちゃった」
 赤い目を気付かれないように、足元を見て声をかけると……
「なんだよ、そんなかっこで行くつもりか?」
 あいつの声。
「え?」
 思わず顔を上げると、さっくりと浴衣を着た三人が
隠しきれない笑みをこらえてこっちを見ていた。
「今日、お祭りに行くって言ったよな?」
 それだけ言うのがやっとのように、噴き出して笑うばか男子。
「ばはははは! おまってなんだ、おまって」
「すげえ! ほんとにひっかかった!」
 息も絶え絶えの笑いに、頭のどこか奥のほうが
なんだかすうっと冷えていく。
 ああ、そう……。ひっかけられたわけ。釣られたわけね、わたしは。
「あははは、ほらな! こいつなら絶対受けると思ったんだ」
 得意げに言うあいつの横、飛び上がるように走り出す二人。
歩み寄るわたしの顔には、きっと笑顔が浮かんでいるんだろう。
「もういいから着替えて来いよ。
わざわざこんな早い時間にしたんだし、ゆっくりでいいぞ」
 なるほど。このばかな時間もはじめから全部計算尽くだったわけだ。
「あとな」
 ふっと真顔で、
「釣りざおはいらないからな」
 言いながらがまんできないように笑い出す。
 なんでわたしはこんなやつ――!
 ぶるぶると震え出す腕。
「気をつけろー! そいつ、目ぇ笑ってねえぞー!」
 遠くからの声に驚いてわたしを見るけど、もう遅い。
「今さら後悔したところで」
 あいつを見すえて振りかぶる手。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1042

●活線挿抜

 大学が創立記念日で休みの日。
いつものように友達とお菓子をつまみながらおしゃべりをしていると、
「ねえ、ちょっといい?」
 申しわけなさそうにおかあさんが扉を開けた。
「パソコン動かなくなっちゃって……。
急ぎの仕事やらなきゃいけないんだ。
悪いんだけど、見てみてくれない?」
「えー」
 そんなの、わたしに言われてもなあ。
 わたしに、言われてもなあ。

 おかあさんの視線を受け流すように、視線を友達に。
「やれやれ、どうにも困った子猫ちゃんたちだ。
ボクがいないとだめなのかい?」
 彼女はやれやれと首を振ると、
お芝居風にもったいぶって立ち上がった。
「ごめんね。成功の暁には
おかあさんがきっとおいしいもの買ってくるからね」
 わたしはさらりと言ってみた。
「え~、ケーキか何かでいい?」
「あ、いいですよ、悪いですから」
 おかあさんの申し出を断る友達に、
「いいからいいから」
 うまくいけば一人、ただ得だけをする人がいるのはないしょ。

 パソコンの場所までつれていくと、友達はさっそく見始めた。
画面をみながら中腰で、かちかちがちゃがちゃ音を出す。
「このソフトが使えるようになればいいんですか?」
「そう。会社で使ってるのを持ってきたんだけど」
「ふーむむ」
 それからネットで開いたページを真剣な目で読んでいく。
「どう? なおりそう?」
「ん~、そうですねえ……」
 その瞬間、友達の目がくわっと開いて、
「ドングル!」
 ふと、つぶやいた。
「え? なにかわかったの?」
 すると友達は立ち上がり、
「危ないから離れてて」
 手を突き出してわたしたちに言った。
 それから、
「秘技! 活線挿抜!」
 普通に動いた右腕がUSBケーブルを一本抜き、
なめらかに別の口に差し込む。
「か、活線挿抜(かっせんそうばつ)だって!?」
 わたしは思わず叫んでいた。
「まさか、それは大陸で三千年前から伝わる幻の回復術? 
大地を流れる気を体内に取り込み、その乱れを強制的に治すというあの技をまだ使える人間がいたなんて!」
「こらこら。はい、できましたよ」
 後ろに立っていた友達。画面を見てみると
さっき止まっていたはずのソフトが動いている感じがした。
「あ、動いた~、よかった」
 おかあさんはほっとためいき。
「どうやったの?」
「えーと。これはまず認証用の機械があって、
そこに直列にささないとソフト自体が動かないんです」
「へえ~」
 二人一緒に声をあげ、わたしはそれから訊いてみた。
「じゃ、活線挿抜って?」
「ああ、電源入れたままで抜き差しすること」
「へえ~。パソコンって、拳法みたいなところもあるんだねえ」
 しみじみとおかあさんはつぶやいた。


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1041

●裸の会社さま

「さあ、いくぞ。この戦国の世で敵を蹴散らし、勝ち組に入るために!」
 殿は我らに言った。
「ついて来い!」
 立派なかぶとを頭にかぶり、得意げに我らを導き歩き出す。
 その身を覆う分厚い鎧、背中はがらあき、
心臓部にもぽっかりと大きな穴があいているというのに。


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1040

●窓z

 男は、暗殺者だった。
 できるならば城の中心部にまでもぐりこみ、
王を傷つけて国を混乱に陥れるのが今回の命令だ。
「さて、どう忍び込むか……」
 男がつぶやいて調べ始めたとき、
「ばかめ!」
 壁の上から声がきこえた。
「この城のセキュリティは万全。
余計なものなど中に入れさせはしないし、
たとえ入ったとしても堅固なシステムがすべてを防ぐだろう。
それが世界の中心。そしてこの国の誇りだ!」
「う、うそだろ……?」
 自分が漏らす言葉にも気付かず、男は愕然とした。
「なんで王様が目の前にいるんだよ」
 愕然としながら――手にした爆弾を投げ込んだ。


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ショートショート 1039

●大義名分

 ぐい、とおさげをひっぱる男の子。
「ちょっとー、やめてよ」
 振り返る女の子に舌を出して駆け出す前をふさぐように立つ
クラスのこどもたち。
「な、なんだよ」
 まごつく男の子に、中の一人が指で指し示したものは、
『クラスからいじめをなくそう!』、そんな目標が書かれた紙。
「こいつ、いじめしたぞ。もう二度とこいつと話すのやめようぜ」
 別の一人が叫び、こどもたちは口々に声を上げた。
「そうだそうだ!」
「賛成!」

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ショートショート 1038

●チョコカレコーヒー

「ぜったいわかんない」
「いーや、わかるね!」
「わかんないー!」
「わかる!」
 お互い噛み付くように彼女と叫びあっていた。
 せっかく手に入ったいい豆でコーヒーをいれてやったってのに、
コーヒーなんてどれを飲んだって
どうせだれも味はわからないなんて言いやがったんだ。
「じゃ、わかんなかったらどうする?」
 ふくれて言うあいつに、
「わかるね。命かけたっていい」
 すると彼女の目にふとした色が浮かび、
「じゃあ、今度わたしがその豆やなんかでコーヒー入れるから、
その豆だけのコーヒーをあててみてよ」
「いいよ、やってみろよ」

 そうして彼女と別れてから一週間。
 やってきた彼女は台所で準備をすると、
コーヒーを入れたカップを四つ、おれの前に並べた。
「どれが正解かは言わなくていい。
その豆だけを使ったコーヒーだと思ったら、それを飲み干して」
「わかった」
 どうせカップの底に『あたり』とか書いてあるんだろう。
 その様子を目に浮かべながら、右端のカップを手に取った。
 香りからして、あの豆とインスタントコーヒーの混ぜものだ。
高い豆をこんなくだらないいれかたするんだから、
ありがたみってものを知らないな、あいつは。
 二つ目のカップ。あの豆と、同種の豆のミックスだろう。
口にするとはっきりわかる。
 三つ目のカップ……
「ん」
 なんだ? あの豆だけなのは間違いないが、
このさわやかな匂いは何だ? 味も最後に残る
残念なえぐみというか渋みというかがない。
「なんだ? これ、どうやっていれたんだ?」
 同じ豆でもおれがいれたのより格段にうまい。
 すると彼女は得意げに笑って、
「わたしの趣味がなんだか知らないの?」
「まあ、コーヒーじゃないことは確かだな」
 と、ごまかしたものの、こいつの趣味? なんだっけな。
 たしか熱帯魚用のサーモスタットを
一緒に見に行った気はするけど、魚には興味なかった気はする。
あとは通販で理科の実験道具みたいなのを買ったとか
にこにこ話していたような。

 まあいい。三つ目のカップに間違いはないが、最後のも試しておこう。
 四つ目のカップは、似た香りと味の豆一本で入れたものだった。
 さて、これではっきりわかった。正解は……
「これだ!」
 半分ほど残ったコーヒーを一気にあおる。
 深い味、それでいて力強い香りが鼻を通り、喉を降りていく。
思わずもう一杯と頼みたくなるようなうまさだった。
「どうだ? 正解だろ」
 訊ねると、
「だからコーヒーなんて味はわかんないって言ったんだ」
 あきれたような目で肩をすくめた。
「どういうことだ?」
「ヒント。チョコ、カレー、コーヒーの共通点」
 チョコとカレーとコーヒー?
「カレーの隠し味か?」
「ぶぶー」
 そんな話をする間に、だんだんだるくなってくる。
「別ヒント。じっくりゆっくりくたくた煮出す」
 なんだ、スープかシチューか?
 いや――!
「わかった? ちゃんと今回は無味無臭じゃなくて、
ちょっと酸味とえぐみがあるのにしたんだけど」
 この息苦しさ、目の見にくさ、気絶しそうな気分の悪さも……!
 でも、何でだ? たかがコーヒーで、なんでここまで!
「じゃ、最後。……わからなかったら、どうするって?」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1037

●殺伐学校

 ある早朝、ある学校で、一人の生徒が
自分の教室の窓枠にベルトをかけて首をつった。
 近くに残された遺書にはこうあった。

『クラスのみんなにひどいことを言われて、先生にもばかにされて。
もう生きていけません。さようなら』


 同じ早朝、ある学校で、一人の教師が
自分の教室の窓枠にベルトをかけて首をつった。
 近くに残された遺書にはこうあった。

『生徒には授業中にとなくばかにされ、校長にはののしられて。
もう生きていけません。さようなら』

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ショートショート 1036

●ちゃっかりさん

 温泉くらいしかとりえもなかったこの街が、
最近ドラマの舞台になったか何かで観光客がたくさん来るようになった。
 お金をそこらへんにばら撒いていくから、
観光業をやってるところはいいんだろう。
でもわたしはどうせ農家の娘。賑わいなんかとは無関係。
むしろ、わたしの憩いの場所だった市民温泉に
頭の悪い声を響かせた上にお湯を汚していくよそ者が
あふれるのが気に入らない。

「ねえ、見て。肌つるつる!」
「うわー、ほんとに効くんだ」
 例によって観光客の声。髪も上げずにお湯につかるってのも、
どんなもんなの? まったく。
「おねーさんたち、それ、温泉成分」
 我慢しきれずに言ってしまった。
「一度入ったくらいで肌がきれいになって病気も全部治ったら、
お医者さんなんていらないと思わない? 
湯治って、じっくり腰をすえて、
長い時間をかけてよくしていくものでしょ?」
 はっとして口をふさいだけど、もう遅い。
 二度と来なくなるならそのほうがいいのに、
なにうっかりまた来てねみたいな説明しちゃってるんだろう、わたし。
 そこで何とか頭を動かして、ちょっぴりおまけをつけてみた。
「それがだめなら、町名物の無農薬野菜の定期購入。
これは健康になること請け合いだよ」

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Author:甘音(あまね)
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