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文繰文庫 ショートショート ブログ版

フミクリフミクラはショートショートのはっちゃけ文庫。文部科学雀の朝十(朝の十分読書習慣)運動を応援しています

2008-03

ショートショート 451

●世界に一人の秘密

 ようやくの休日。久しぶりに顔を見る彼女は、
待ち合わせのベンチにどこか乱暴に腰を下ろした。
「どうしたの? なんか疲れてるね」
 声をかけるとぼくの隣で、
「も~、さんざんだよ」
 大きくため息をついた。
「他の人は普段からわたしがろくな仕事してないっていうの。
なにかあったってやめればいいだけ。
全部責任をとらなきゃいけない男とは仕事の質が違うとか、
仕事に向けての態度が違うとか、いっちいちばかにしてさ。
そうやっても結局は余した仕事とか、
まとめの処理とかはわたしが全部やらなきゃいけないのに。
自分たちだけが大変だ大変だって、偉いふりして。
わたしがどんなにがんばってるかだって、
どんな仕事をしてるのかだって、だれも何にもわかってくれない」

 口をとがらせて肩を落とす彼女にぼくは言う。
「わかりたくないんだろうな。
誰かをばかにしていれば自分だけは守れるし。……でも」
 振り向いたその瞳に。
「ぼくは、ぼくだけは、そんな君を知ってる」
 精一杯の笑顔に込めて言うと、彼女の目からぼろっと涙が落ちた。
 普段人前で泣くことなんてない、彼女の涙。
 うつむく頬に手を添えて目の端をぬぐうと、
笑いのような小さなためいき。
「うん?」
 訊くと、そっと笑顔の目を上げて、
「カニのにおいがする」
 ぼくの手にその手を重ねた。


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テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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