ショートショート 782
●こころから
おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔だった。
長い間入院していたために
周りの人との関係は薄くなっていたけれど、
かつてのおじいさんを知る人がたが集まっていた。
見たこともない人たち。知らなかったおじいさんのことが
その口から語られる。
生まれから苦労も多く、若いうちから家の手伝い。
兄弟や家計を助けながら生活し、勤めては人にだまされ全てを失い、
這い上がってはもらい火で家まで失い、
自分の家を建てれば騙し取られて、こどもを生めば逝去して。
苦労の中で生まれ、しあわせをつかみかけると
まるで狙いすまされたように奪われていく人生だった。
わたしの知るころのおじいさんはゆったりとすごしていたけれど、
その中でも心無い人とのいさかいに心を痛めていたと聞くと、
こころをすりつぶされるような思いがした。
でも。
おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔で。
もしかしたら、おじいさんの今生は苦難を乗り越えて
あきらめずに生きることを学ぶ人生だったのかもしれない。
もしそうだとしても、おじいさんはそれを立派にやり遂げ、
ようやく安らかな眠りについたんだ。
――おつかれさま。
仕事の終わりに軽々しく口にしてきたけれど、
わたしははじめて心の底からその言葉を思った。
おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔だった。
長い間入院していたために
周りの人との関係は薄くなっていたけれど、
かつてのおじいさんを知る人がたが集まっていた。
見たこともない人たち。知らなかったおじいさんのことが
その口から語られる。
生まれから苦労も多く、若いうちから家の手伝い。
兄弟や家計を助けながら生活し、勤めては人にだまされ全てを失い、
這い上がってはもらい火で家まで失い、
自分の家を建てれば騙し取られて、こどもを生めば逝去して。
苦労の中で生まれ、しあわせをつかみかけると
まるで狙いすまされたように奪われていく人生だった。
わたしの知るころのおじいさんはゆったりとすごしていたけれど、
その中でも心無い人とのいさかいに心を痛めていたと聞くと、
こころをすりつぶされるような思いがした。
でも。
おふとんの中のおじいさんは、とても穏やかなお顔で。
もしかしたら、おじいさんの今生は苦難を乗り越えて
あきらめずに生きることを学ぶ人生だったのかもしれない。
もしそうだとしても、おじいさんはそれを立派にやり遂げ、
ようやく安らかな眠りについたんだ。
――おつかれさま。
仕事の終わりに軽々しく口にしてきたけれど、
わたしははじめて心の底からその言葉を思った。

