ショートショート 790
●すてきなうそ
どうしても会いたくなって、駅まで行って仕事帰りの友達を待った。
どれだけの時間か、ぼんやり眺め続けた人の中から
懐かしい顔がわたしに向く。
「どうしたの? めずらしいね」
近づいてくる友達に思わず抱きつくと、
やわらかなにおいがわたしを満たす。
「いいにおい」
ぎくっと体を硬くした友達はわたしをはねのけようとする。
「やっ、やだ。今あせっぽいよ」
でもわたしは鼻をうずめる。
「いいにおい。あったかーい。やわらかい……」
ほおずりするわたしにあきらめたような息をこぼし、
「どうしたの? ……なんのにおい?」
「お葬式行ってきた」
ぴくっとゆれる筋肉。生きている体が雄弁に心を語る。
「おじいちゃんが……すごく、怖かった。それに、すごく臭かった……」
「しょうがないよ、しょうがない」
わたしの頭をなでる手。
「ね」
「うん?」
「死んじゃ、やだよ」
ふっと息をもらすと、
「だいじょうぶ、死なないよ」
わたしの頭に頬を重ねた。
どうしても会いたくなって、駅まで行って仕事帰りの友達を待った。
どれだけの時間か、ぼんやり眺め続けた人の中から
懐かしい顔がわたしに向く。
「どうしたの? めずらしいね」
近づいてくる友達に思わず抱きつくと、
やわらかなにおいがわたしを満たす。
「いいにおい」
ぎくっと体を硬くした友達はわたしをはねのけようとする。
「やっ、やだ。今あせっぽいよ」
でもわたしは鼻をうずめる。
「いいにおい。あったかーい。やわらかい……」
ほおずりするわたしにあきらめたような息をこぼし、
「どうしたの? ……なんのにおい?」
「お葬式行ってきた」
ぴくっとゆれる筋肉。生きている体が雄弁に心を語る。
「おじいちゃんが……すごく、怖かった。それに、すごく臭かった……」
「しょうがないよ、しょうがない」
わたしの頭をなでる手。
「ね」
「うん?」
「死んじゃ、やだよ」
ふっと息をもらすと、
「だいじょうぶ、死なないよ」
わたしの頭に頬を重ねた。

