文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-10

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ショートショート 1009

●みと

 外国旅行で観光地のトイレに入ろうとしたら、
かっこいい男の人が係の人に止められていた。
 すらりと高い背、整った顔立ちから発せられる言葉は
ここの国のものではなく、言い合いに高ぶっているのか
大げさな手振りで一生懸命訴えていた。

 [わたしは]、[そこに]、[入りたい]。

 言いたいことはわかるけど、そっちは女子トイレ。
 たくましいおばさんはでんと構えて首を振り、
 [あんたはあっち]。
 別の入り口の男子トイレをさしているのに通じない。
『ああもう、なんでわからないかな』
 男の人がつぶやいたのは、わたしがわかる言葉。
 そこでおせっかいだと思ったけれど、声をかけてみた。
『えと、あの、場所が違うって言ってるみたいですよ』
 なんとか訳して、男の人へ。
『場所?』
 はるか高いところからわたしを見下ろす瞳。
『こっちは女性用で、男性用は向こうです』
『それは、女性器用、男性器用ってこと?』
 性器。ぎくりとしたけれど、なんとか答えた。
『そう、です』
 するとわたしを見る彼はまっすぐに目を合わせて、
『あなたは男と女をどうやって区別してる?』
『それは……その……それ、で』
『ほんとに? 性器ってそんなに大事? ほんとに見分けられるもの?』
『だって、わからなかったら困ります』
『あなたは男性? 女性?』
『女性です』
 さらに続けて訊いた。
『じゃあ、寝てる間に手術されて、性器がなくなってたら
自分を男性・女性のどっちに思うとおもう?』
『それは……女性』
『じゃあ、性器が男性のものに変えられてたら?』
『ええ? それは、どうでしょう』
『あなたは初めて会った人の性器に触ることはある?』
『え? ないですよ、そんなの』
『それじゃあ、変じゃない? 性を見分けるのは性器だって言うのに、
性器を触りもしないし、見もしない相手にさえ、
男性・女性の区別をつけられるなんて』
 そういわれれば……たしかにそうだ。
『この国でも、トイレは性器を使う場所でしょ? 
見た目を使う場所じゃない』
『そうです』

『だからわたしは女で、こっちのトイレでいいはずだって
さっきからそこのわからずやに言ってるのに』
 ええ~! この人、おんなのひと?
 指で指してたのはトイレじゃなくて、女性のマークだったんだ。
 そこでわたしはなんとか知ってる単語を並べて
横にいるおばさんに説明しようと試みた。
『えーと、彼は、女性です』
 きょとんとした目。わたしを見て、その人へ。
『あ、彼女は、女性です』
 するとおばさんは大笑い。悪びれることなく笑いながら、
ようやく身振りで許可が出た。
『二人分ね』
 彼女がおばさんにわたしの分までお金を払い、
わたしを先に中へと押した。
『えと……え?』
 見上げるわたしにひとつウインク。
『ありがと、かわいいお嬢ちゃん。
迷子にならないうちにおとうさんのところに戻らなきゃ』
 迷子……?
 もしかして、はたちを超えてるなんて夢にも思ってない、とか?
「見た目って、結構残酷だなぁ」
 わたしはこぼれるため息につぶやいた。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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