文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-06

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ショートショート 116

●尊厳死

 日差しの中で、庭の雪だるまが静かに解けていこうとしていた。
 ……せっかく生まれたんだ。
せめてもう少し永らえさせてやろう。
 そんなことを思っていると、
「おとうさん」
 下の方から声。
 視線を下にうつすと、いつの間にか
そばに来ていた娘がおれを見上げていた。

「どうした、娘よ」
「おとうさん、雪だるまにへんなことしないでよね」
 きびしさを含んだ声で言う。
「なんだ、へんなことなんてしないぞ」
「うそ! 絶対今なんか考えてた。
雪だるまは雪だるまでそのままがいいの。
それが尊厳死ってやつなのよ」
「へえ、難しい言葉を知ってるじゃないか」
 娘の小さな頭をぐしゃぐしゃとなでる。

「でもな、雪だるまだってせっかく生まれてきたんだ。
どんなことしたって少しでも長く生きたいと思ってるぞ」
「うそ。それで変なことしたら、あたしが作った雪だるまじゃなくなっちゃうじゃない」
「そうか? 何度髪を切っても、なにを食べても、お姫様はおとうさんたちのこどものままだろ? なにも変わらないよ」
「え~」
 納得行かない顔でふくれると、庭の方からなにかの音。
「あ~!!」
 娘の声にそちらを見ると、
妻が大きな槌で雪だるまをたたきつぶしていた。
「な、なにやってんですか、キミは」
 たずねると、
「安楽死!」
 にこにこっと笑って言った。
「雪だるま言ってたよ、
『痛いよ~、苦しいよ~、早く楽にしてよ~』って。
だから雪だるまが雪だるまとしての尊厳があるうちに
生涯に幕をおろしてみました」
「う……」
 娘の頬を伝って、涙がぽろりとこぼれる。
「え? え? だって、尊厳死だよ」
 あわてる妻。
「おかあさんね、あの雪だるまが元気なうちに
安楽死嘆願書をもらってるんだよ。
二人のお医者さんの了承ももらってる」
「うえぇええ……」
 なきやまない娘。おれは妻に向かって言う。
「よし、キミを逮捕する。
自殺幇助か殺人か、それとも合法か。
あとは裁きを待つがいい」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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