文繰文庫 ショートショート ブログ版

フミクリフミクラはショートショートのはっちゃけ文庫。文部科学雀の朝十(朝の十分読書習慣)運動を応援しています

2017-08

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ショートショート 149

●最悪

 妻と散歩していると、前を歩く女性の肩に鳥のフンが落ちた。
「うわっ、サイアクー」
 片方が言って、もう片方が笑う。

 ……何が最悪か! 
わたしがこどものときは どれを最悪と言っていいか
わからないほどだった。
 毎日血と煙とやけこげた肉のにおい。
空を見ては飛行機の影におびえ、
昨日別れた友達が、次の日に穴だらけになっていた事もある。

 それでもまだましだった。
戦争に行き、殺す恐怖と殺される恐怖、
死んでゆく仲間に自分を映して気を病んだ兄。
敗戦後に敵国の兵隊に汚され自ら命を絶った姉。
だが、わたしは生きている。
自分が生き延びる事に精一杯だった日々。

 盗みもしたし、殺されるほど殴られもした。
憎い外国兵に物乞いもした。
それでも生きなければならなかったんだ。

 それをこんな……こんなチャラチャラした奴どもが
最悪を語るなど……! 
真の最悪がどういうことか、目に物見せてくれようか。
「それだけ、幸せな世の中になったということですよ」
 隣の、妻が言った。
 わたしが見ると深くしわの刻まれた顔で、
だがあの頃のように笑ってみせる。
「……そうだな」
 わたしは妻の手を取った。
妻は一瞬身を硬くしたが、気づかない振りをする。
「あ、見て」
 小さく女性たちの声。
「ああいうの、ちょっといいよねえ」
 わたしは、誇らしく妻の手を引いた。


テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://fumikurifumikura.blog73.fc2.com/tb.php/177-0b85cae1
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

 | HOME | 

FC2Ad

 

プロフィール

甘音(あまね)

Author:甘音(あまね)
めざせショートショート1050本!
いつだって全力疾走なのです。

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。