ショートショート 253
●未必の故意
「なあ」
山合いの一本道。高速を走る車の中、
運転している友人が呼びかけた。
「車に乗るときはさ、
積極的に誰かを殺そうと思ってないし、
死ねばいいとも思わないよな」
「そりゃそうだ」
「でも、事故がおきる可能性はなくせないとわかってるし、
下手な事故なら人が死ぬのもわかるよな」
「ああ」
「けど、それはわかっても便利だから車に乗るわけだ」
「まあ、そうだな」
「なんでそれが、未必の故意にならないんだ?」
「そりゃ、立法の基盤には
車の関係者が出す金があるからだろ。
死の商人が金を出せば戦争だって合法化するさ、奴らは」
それきり言葉が途切れ、すこしの沈黙。
「……待て。なんでいきなりそんなことを訊く?」
訊ねると、しばらく前を見ていたが、
口の端を震わせながら声を出した。
「さっき、なんか轢かなかったか?」
「なあ」
山合いの一本道。高速を走る車の中、
運転している友人が呼びかけた。
「車に乗るときはさ、
積極的に誰かを殺そうと思ってないし、
死ねばいいとも思わないよな」
「そりゃそうだ」
「でも、事故がおきる可能性はなくせないとわかってるし、
下手な事故なら人が死ぬのもわかるよな」
「ああ」
「けど、それはわかっても便利だから車に乗るわけだ」
「まあ、そうだな」
「なんでそれが、未必の故意にならないんだ?」
「そりゃ、立法の基盤には
車の関係者が出す金があるからだろ。
死の商人が金を出せば戦争だって合法化するさ、奴らは」
それきり言葉が途切れ、すこしの沈黙。
「……待て。なんでいきなりそんなことを訊く?」
訊ねると、しばらく前を見ていたが、
口の端を震わせながら声を出した。
「さっき、なんか轢かなかったか?」
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