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ショートショート 410
●ニオイ
会社の飲み会、大人数のはしっこで
ジュースを飲みながらこっそりお刺身をつまんでいたら、
後ろから肩をつかまれた。
「はい?」
振り返るわたしの目の前、迫ってくる同じ部署の女性の顔。
「うわぁあ、なんですか、いきなり」
お箸を落としながらも力の限り顔面に指をかけて押し返す。
しばらくぎりぎりと押し合いをしていると、
ようやくあきらめたようにふらりと立ち上がって歩き出した。
「あ~、もったいない」
横から別の女の子。
「先輩にキスされると、好きな人とカップルになれるって伝説なのに」
「ええ?」
見ていると、ふらふら歩くその酔っ払いは
狙いを定めたように急降下して、女の子と唇を重ねた。
意外と伝説がきいているのか、
それとも相手も酔っているのか、
嫌がっている様子はないみたいだった。
ほっぺにキスする人、口にキスする人。
何人か眺めていてふとひらめいた。
「なあんだ、そういうことかぁ」
「えっ?」
「ただのキス魔に見えて意外と冷静だよ、あの酔っ払い」
あの人とキスするからカップルになるんじゃない。
あの人がキスするのが、かわいい子だけなんだ。
なんとなく同類のニオイがしたけど、
わたしは黙ってジュースを飲んだ。
会社の飲み会、大人数のはしっこで
ジュースを飲みながらこっそりお刺身をつまんでいたら、
後ろから肩をつかまれた。
「はい?」
振り返るわたしの目の前、迫ってくる同じ部署の女性の顔。
「うわぁあ、なんですか、いきなり」
お箸を落としながらも力の限り顔面に指をかけて押し返す。
しばらくぎりぎりと押し合いをしていると、
ようやくあきらめたようにふらりと立ち上がって歩き出した。
「あ~、もったいない」
横から別の女の子。
「先輩にキスされると、好きな人とカップルになれるって伝説なのに」
「ええ?」
見ていると、ふらふら歩くその酔っ払いは
狙いを定めたように急降下して、女の子と唇を重ねた。
意外と伝説がきいているのか、
それとも相手も酔っているのか、
嫌がっている様子はないみたいだった。
ほっぺにキスする人、口にキスする人。
何人か眺めていてふとひらめいた。
「なあんだ、そういうことかぁ」
「えっ?」
「ただのキス魔に見えて意外と冷静だよ、あの酔っ払い」
あの人とキスするからカップルになるんじゃない。
あの人がキスするのが、かわいい子だけなんだ。
なんとなく同類のニオイがしたけど、
わたしは黙ってジュースを飲んだ。
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