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ショートショート 425
●蝶になる
病院を出るおれの足は普段より重く。
でも外に向かう分だけいくらか軽くなっていくようだった。
薄暗い屋内から出ると、涼やかな風。
重くよどみ固まった空気と時間が そっと動き出す気がした。
「じいさん、すっかりボケちゃってたな」
横を歩く婚約者に、言うでもなくつぶやく。
白いこぢんまりとしたベッドに、
どこを見ているのかなにを考えているのか伺えない表情で
横たわる姿。話しかけてもろくな反応も無く、
おれが誰を紹介しているのかも、
もしかするとおれが誰かすらももはやわかっていないのだろう。
「あれが、ほんとにあのかくしゃくとしていたじいさんなのか?
いつもおれをかわいがってくれた、優しい人はどうなったんだよ」
思い出したら胸をかきむしりたいほど苦しくなって、
目の前がぼんやりとゆがみ始める。
「きっと……」
横に聞こえる彼女の声。
「おじいさんは、あなたの知ってるおじいさんから、
あなたの知らないおじいさんになっただけ」
柔らかな声になんだかすごくほっとして、
周りも知らずにすこし、泣いた。
病院を出るおれの足は普段より重く。
でも外に向かう分だけいくらか軽くなっていくようだった。
薄暗い屋内から出ると、涼やかな風。
重くよどみ固まった空気と時間が そっと動き出す気がした。
「じいさん、すっかりボケちゃってたな」
横を歩く婚約者に、言うでもなくつぶやく。
白いこぢんまりとしたベッドに、
どこを見ているのかなにを考えているのか伺えない表情で
横たわる姿。話しかけてもろくな反応も無く、
おれが誰を紹介しているのかも、
もしかするとおれが誰かすらももはやわかっていないのだろう。
「あれが、ほんとにあのかくしゃくとしていたじいさんなのか?
いつもおれをかわいがってくれた、優しい人はどうなったんだよ」
思い出したら胸をかきむしりたいほど苦しくなって、
目の前がぼんやりとゆがみ始める。
「きっと……」
横に聞こえる彼女の声。
「おじいさんは、あなたの知ってるおじいさんから、
あなたの知らないおじいさんになっただけ」
柔らかな声になんだかすごくほっとして、
周りも知らずにすこし、泣いた。
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