文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-07

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ショートショート 485

●故意と過失と確信と

 駅そばの喫茶店が最近人気だと話を聞いて、
彼と一緒に冷やかしに行ってみた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
 ドアを開くと飛んでくる言葉。
中にはメイド服を着たウェイトレスさんたちがいた。
 案内される最中に転びそうになりながらも無事に席に着き、
わたしはそっと声を出す。
「ね、ねえ。メイドさんだよ」
 すると彼は
「そうだよ。知らなかったの?」
 当然のように訊いた。
「知らない、知らない」
 まさかここがそんなおもしろ喫茶だったなんて。

 ……と。
「いらっしゃいませ、ごゆっ」
 ごとん。
「え?」
 目の前に転がってくるグラスと、流れてくる水。
 ぼたぼたとテーブルはじからこぼれ、
わたしのスカートをぬらしていった。
「わ、わあぁ」
「あ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 こぼれる水を自分の袖で止めようとテーブルに乗り出す女の子。
 目の前に頭が迫って……
 ゴン。
「いったぁ~」
「ごっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
 それからすこしばたばたしてなんとか後始末が終わり、
ようやく注文することができた。
「うう、ひどいめにあった」
 ひざに乗せたバスタオル。
「まあまあ。勘弁してあげようよ」
 困り笑いで言う彼。自分のことじゃないからって、適当な。
 ちょっとむくれていると、ふと彼が叫んだ。
「待って! そこでいい」
 見ると、さっき頼んだコーヒーを運んできた、
別のメイドさんを制止している。
 そこでグラスを受け取ると、自分で穏やかにテーブルの上に置いた。
「……ふう」
 ほっと一息。
「こぼされたって、にこにこ笑って勘弁してあげればいいじゃない」
 わたしが言うと、
「冗談じゃない。あんな故意犯にかけられたらたまらない」
 彼は真顔で応えた。
「え? なにが違うの?」
「最初の子は、あれは、過失犯」
 あたりを見回すと、向こうのほうで注文をとっている姿を見つけた。
「本人にまったくその気は無いのに、つい失敗してるんだよ」
 ご注文繰り返します。アイスコーヒーがお一つと、
アメリカンがお一つと、カプチーノがお一つでよろしいですか? 
あ、すいません。エスプレッソですね。
 ……そんなやりとりが聞こえてきた。
 あれでよく首にならないなあ。

「じゃあ、さっきの子は?」
 また見回すけれど、さっきの子は見えなかった。
「あれは故意犯。最初の子のどじっぷりをまねて、
自分がなにをやろうとしているかわかりながら、
わざとつまづいたふりでこぼすのを狙ってたんだ」
「ええ? そうなの?」
「うん」
「ええ~、たち悪いね」
 わたしが彼でも、わざとかけられるのはやっぱりいやだなあ。
 でも彼は、
「いや、一番たちが悪いのは――」
 床に目を落としながら言った。
「いろいろ失敗を誘発したほうが心をくすぐるだろうと思って
床に微妙な段差をつけてる、確信犯の店長か設計士だな」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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