文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-08

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ショートショート 690

●引かれる場所

 ――ドバン!
 すごい音を立てて玄関のドアが閉じたようだった。
 この台風の中でかけるなんて何考えてんだ。
 あわてて玄関に行き、扉を開ける。
すごい風に押し戻されそうになっていると、
向こう側から引かれて倒れそうになった。
「なんだ、なにやってんだ?」
 おれを支える手。
「おやじがどっか行こうとするから様子見に来たんだよ」
 風の音、雨の音にふたりでどなるように声を出しながら中に入った。
 扉を閉めて、轟音がどこか遠いものになる。

「ふは~」
 ふたりため息をつきながら玄関に上がると、
「どうしたの?」
 母さんがやってきて訊ねた。
「いや、それがな。隣で出てく音がしたから見に行ったんだ。
そしたらあいつ、船みに行くってんだ」
「この台風に?」
「そりゃ、漁師にゃ船は命みたいなもんだ。
でも、それで死ぬ奴だって毎回いるだろ。
ほんとに死んだらなんにもならんだろうに」
「やっぱり後ろ髪引かれるんじゃないかなぁ……って、
あなたは気にならないの?」
「今言ったって、どうせなにもできないだろ。
台風になる前に心ゆくまで綱まいといたし、行くだけ無駄だ」
 軽い笑顔に笑い声。
「おやじ……」
 おれはなんだかほっとして、
「こどものころから友達にからかわれたりして
ずっと嫌だったんだけどさ、今だけはおやじのそこを心から誇りに思うよ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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