文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-07

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ショートショート 726

●針

「ねえ、おばあちゃん。海女やってたときの一番の思い出ってある?」
 少女はその祖母に訊いた。
「そうだねえ、あれかな」
 孫と並び、彼女はこたつで穏やかな笑みを浮かべる。
「あれは、わたしがずっと若かったとき。
なんだか調子悪かったけど、海に潜ってたんだ。
しかもそのときはなぜだか良くとれてね。
あといっこー、あといっこーって、毎回調子に乗って」
「うん」
「そして何回かもぐったとき、急に後ろから。
『いいかげんにしとけよ』って声」

「ええ? 水の中でしょ?」
 少女の声に楽しそうに笑い、
「そう。でも、そう聞こえたんだ。
びっくりして振り返ったら、おっきな魚がいて」
「さかな?」
「それも、わたしの背ぐらいある、ほんとにおっきくてまんまるの」
「ふぐだ」
 老女はしわの刻まれた手を組み、
「『ふぐさんだ』って、言った」
「ふぐさん? 自分でさん付け?」
「うん。そして、『おまえ、いいかげんにしとかないと怒るぞ』って。
わたしと同じくらいの体に、ぷくーって針をとがらせて」
「ええ? それ、ハリ……」
「あはは」
 こらえきれないように吹きだすと、
「そう。わたしも最初から変だと思ってたんだけど。
 『ハリセンボンでしょ?』わたしが訊ねたら、
 『こら、だれがハリセンボンだ。
いくら温和で評判でも、ふぐさん怒るぞ』」
「ふふふ、結構強情だね」
「それから、『おまえ、だんなと約束したんだろ。
調子悪かったら無理しないって』。『約束破ったら針千本のますぞ』」
「……やっぱりハリセンボンじゃない」
「あはは。そして、一言。『おなかの子を悲しませるなよ』」
「え?」
 老女は少女の頭に手を置き、撫でながら言う。
「そのおかげで、無理することもなくて。
あなたのおかあさんをちゃんと生むことができたんだよ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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