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ショートショート 811
●死ぬために生まれた
「なあ、おれたちってなんなんだろうな」
矢筒の中、一本の矢が声を出した。
「おれたちは射たれるためにある。
けど、そのときを長いこと待っていても……
本当の『矢』でいられるのは一瞬。弓につがわれ、放たれれば
次の瞬間には存在意義を失うんだ」
「何を言う。花火だってセミだってそうだろう?」
別の矢が応えた。
「でも、花火は一瞬で人の心を魅了する。
セミは次の世代に命をつなぐ。でも、おれたちはどうだ。
人を殺すため、何かを壊すため。他のもののように
なにかを残すことすらできないんだ。
生まれた瞬間からこんなにはっきりと死を予感する存在。
……おれは! 何のために生まれたんだ!」
沈黙があたりを包み、しばらくのあと、別の矢。
「おれは、そうは思わない。たとえどう使われようと、
放たれるために生まれたんだ。その直後に待つのが死だろうと、
おれは自分が一番おれらしい時間を迎えるのを楽しみに思うよ」
そこへ、人。いかつい顔の男が矢筒を手にし、歩き出した。
「ほら、とうとうこのときが来たぞ」
わきあがる期待と不安。矢たちはそれぞれに
一瞬一瞬を胸に刻み込みながら、迫り来るその時に備えはじめる。
そんなことはつゆ知らず、男は部屋の中に腰を下ろすと
矢を一本ずつ引き出し、三人の息子らしい男たちの前に置いて、言った。
「さあ、その矢、おまえたちに折ることはできるか?」
「なあ、おれたちってなんなんだろうな」
矢筒の中、一本の矢が声を出した。
「おれたちは射たれるためにある。
けど、そのときを長いこと待っていても……
本当の『矢』でいられるのは一瞬。弓につがわれ、放たれれば
次の瞬間には存在意義を失うんだ」
「何を言う。花火だってセミだってそうだろう?」
別の矢が応えた。
「でも、花火は一瞬で人の心を魅了する。
セミは次の世代に命をつなぐ。でも、おれたちはどうだ。
人を殺すため、何かを壊すため。他のもののように
なにかを残すことすらできないんだ。
生まれた瞬間からこんなにはっきりと死を予感する存在。
……おれは! 何のために生まれたんだ!」
沈黙があたりを包み、しばらくのあと、別の矢。
「おれは、そうは思わない。たとえどう使われようと、
放たれるために生まれたんだ。その直後に待つのが死だろうと、
おれは自分が一番おれらしい時間を迎えるのを楽しみに思うよ」
そこへ、人。いかつい顔の男が矢筒を手にし、歩き出した。
「ほら、とうとうこのときが来たぞ」
わきあがる期待と不安。矢たちはそれぞれに
一瞬一瞬を胸に刻み込みながら、迫り来るその時に備えはじめる。
そんなことはつゆ知らず、男は部屋の中に腰を下ろすと
矢を一本ずつ引き出し、三人の息子らしい男たちの前に置いて、言った。
「さあ、その矢、おまえたちに折ることはできるか?」
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