文繰文庫 ショートショート ブログ版

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2017-10

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ショートショート 949

●エゴイスト

「なんで自殺なんかしようとしたの!」
 夜の闇の中かけつけた母親は、病院のベッドで
意識も朦朧と横たわる我が子を覆うように抱きしめ、泣いた。
「どうして……。もうたった二人の家族じゃない。
あなたが死んでどんなに悲しむかわからないの!? 
他に何もいらない。わたしはあなたが生きてるだけでいいのに」
 よかった、と様子を見ていた新人医はため息をつく。
自殺はきっと青年の一時の気の迷い。
この母親とならこれをきっかけにして、
新たに人生を見つめなおすこともできるだろう。
 そうして彼が退院してから一か月ほどのち。

「ただいまー!」
 母親は上機嫌で自宅の扉を開いた。
「帰ってきたよ。さびしかったでしょ?」
 まっすぐ息子の部屋へ行き、
ベッドの上に横たわる全体包帯巻きのこけしのようなものに頬を寄せる。
「うんちとおしっこはどうかな? 今きれいきれいしてあげるからね」
 母親は根元から楽しげにおむつを抜くと
「あれ? あんまり出てないね。どこか調子悪いのかな?」
 タオルを手に、赤ん坊をあやすように言葉をかけた。
「う、う……」
 声のような音を出す、手も足も無い繭のような『それ』。
「だいじょうぶ、心配しないでみーんなおかあさんに任せて」
 彼女は薄く目を細めると、彼の耳元に口を寄せてささやく。
「他に何もいらない。わたしはあなたが生きてるだけでいいの」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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