文繰文庫 ショートショート ブログ版

フミクリフミクラはショートショートのはっちゃけ文庫。文部科学雀の朝十(朝の十分読書習慣)運動を応援しています

2017-04

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ショートショート 1035

●趣味と実益

 友達と飲んで終電を逃した彼女に呼ばれ、おれは愛車を走らせた。
 そして駅前、タクシー乗り場から
すこし離れたところにいる彼女とその友達の前でドアを開ける。
「ごめんね、急に呼び出して。それと悪いんだけど……
友達も、送ってもらえる?」
「ああ、いいよ」
 助手席でシートベルトを締める彼女を確認して、
後ろの二人にも声をかける。
「おれの車に乗るからには、後ろもシートベルトちゃんと締めてよ」
「あー、はーい」
 酔った声、適当な動きでベルトの金具を探す音。
「あれ? なにこれ。後ろって腰だけじゃないの? 
前みたいなベルトになってるー」
「趣味と実益を兼ねて、それを選んだんだ。
ベルトはゆるんでない? ちゃんと締めた?」
 振り返り、目視で確認。
「締めたよ、ほら」
「うーん、よし」
 車を動かすと、後ろから楽しそうに声が響いた。

「なんか見た目に似合わないね」
「うん? おれ?」
「ぜんぜんそう見えないのに、安全とかに結構気つかってるんだ」
「なんだ、心外だな」
 誇らしくおれは言う。
「安全なんかどうでもいい。おれはたすき掛けで強調される
胸の形が好きなだけだ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1033

●お願い! 神様

 娘が車に跳ねられたと妻からの電話。
 仕事もかばんもほっぽり出して病院に着くと、
まだ手術中とのことだった。
 見上げる手術中の文字。中で何が行われているかもわからず、
そこにいる意味もないのにただ待っているだけしかできない。
 ――ああ、神様!
 祈る。祈ることしかできないんだ。
 ――わたしは今までいいことばかり
してきたわけではありません。ですが、人を傷つけるような
悪いことはしなかったつもりです。
なのに、なぜ娘がこんな目に会うのですか。
娘を、他人に傷つけられて失う事がないように、
どうぞお力をお貸しください――。
「どうか、どうか……! わたしのすべてを差し上げます。
命も、なにを失っても構いませんから……!」
 この際神も悪魔もあるものか。助けてくれるならなんだっていい。
この身を捨てて構わない。

 心で叫んだ瞬間、体の周りがぞくりと冷える。
『なら、おまえが心の底から大事に思うものを一つもらおう。
代わりに娘の命は助けてやる。それでいいな?』
 耳の後ろあたりで声がした。
 清らではない物の言葉。でも、それでも良かった。
「もちろんです。ですから、どうか!」
 すがるように声を出すと、ふっとあたりの空気が穏やかになる。
 そして、すぐに手術中のランプが消えた。
 結果は、わかっていた。
「お嬢さん、助かりましたよ!」
 中から出てきた女性の明るい声。
 おれは妻と向き合い、手を握る。
 と、とまどった顔がおれに。
「あなた……よね?」
「なんだ、あたりまえだろ?」
 もしかしたら、あの悪魔。おれの存在自体を奪って行ったのか? 
もしくは、世界からおれの記憶が消えるんだろうか。
 でも、それでもいい。妻と娘が幸せに生きてくれれば、それでいいんだ。
「今のうちに言っておくよ。おれは君と一緒になれて、
すごく幸せだった。おれがいなくなっても、
あの子と幸せに暮らして行って欲しい」
 ほっとしたような、すべてをなしとげたような充足感。
すこしのさみしさも感じないわけではないけれど、
娘が死ぬことに比べたらそんなのなんでもないさ。

 けれど、妻は。
「やだ、なに言ってるの」
 嬉し涙を拭きながら小さく笑って、
「それより、どうしたの? その顔……。ちょっと男前じゃない」
「男前?」
 鏡を出してみてみると、なにやら見慣れたものが足りない。
 生まれてからの三十七年間、苦楽を共にしてきたあいつ。
鼻の横で黒く誇らしげに咲き誇り、
一本だけ黒々とした毛を伸ばし続けたあの……
「ほくろ子ぉおおおおお!」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1032

●やってみなくちゃ

 ある日の放課後、教室のドアを開けると
中にいたクラスの女子が飛び上がるように振り返っておれを見た。
「なにやってんだ? そこ――」
 お前の机じゃないだろ?
「言わないでっ!」
 ぱちんと手を合わせて頭を下げる。
「なんだよ、恋のおまじないとかか?」
「う」
 あからさまにこわばる体。
「ばっかばかしい。おまじないって、あれだろ? 
好きな人の使ってるノートの最後のページを切り取って
自分の名前を書いておくと、そいつがノートを使い切ったときに
想いがかなうとか、好きな人の消しごむに
恋のライバルの名前を書いてそいつに使い切らせればライバル脱落とか、
好きな人の使ってるペンで二人の名前を書けば両思いになれるとか」
「う……」
「ばかだなあ。ほんとにばかだなぁ。そんなの効かないって。やめとけよ」
 すると拗ねたように横を向いて。
「なんであんたにそんなことがわかんの? 
やってみなくちゃわかんないじゃない」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1031

●政治家と談合

 洋菓子屋に一人の中年女性がやってきて、
店員に叩きつけるように言った。
「またプリンにばか苦いカラメルが入ってたんだけど。
今度こそはと信じてたのに裏切られた気分! 
本当に残念だし、心から幻滅した」
「お客さん」
 店員はうんざりした顔で応える。
「前もそんなことおっしゃってましたけど、
プリンにカラメルは絶対入っているものなんですよ。
プリンにカラメルがないわけがない。
プリンといえばカラメル、カラメルと言えばプリン。
切っても切れないものなんです。
信じるとか信じないとかの問題じゃありません。
変な妄想にすがるのはやめて、そろそろ現実を見てくださいよ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1030

●ぶちこわし

 その日、大学がお休みの晴れた日の午後。寮の広間でお茶会があった。
 出されたお菓子でみんなの注目を集めたのは、
隣の部屋の子が作ったプリン。
 とろりと口の中に流れてはひたされた部分を
しあわせで満たしていくような、やわらかでいてしつこくもない、
上品でやさしげな味だった。
 それをほほえんで口にする、わたしと同室の彼女。
 彼女はいつも物静かな人だった。一緒の部屋で二年間暮らしてきても、
こうした寮のお茶会のときでも授業のときでも、
いつも奥ゆかしげで控えめで。薄く笑う以外の顔をすることなんて
ないんじゃないかと思ってた。

 でも。
「このままお店に並んでても絶対売れるよ」
「わたしこんなのが売ってたら買いにいくよ」
 賞賛の声が響く中、
「あはは、わたし、お菓子作りは好きだから」
 作った子が照れたように答えると――彼女は叫んだ。
「あなたが考えているのはお菓子を作ることだけ。
食べる人の気持ちもお菓子の気持ちも全然わかってない!」
 はじめて聞く彼女の悲痛な声。そんな声を出すのにも、
その言葉にも驚いて、その場にいた人の口に音はまったくなくなった。
「あ、ご、ごめんなさい」
 はっと気付いたように顔をふせ、気まずそうに
部屋から駆け出して行くと、部屋の中にささやきが広がる。
「どうしよう、わたしなにか失礼なことしちゃったかな」
 青くなる子。
 どうしよう、彼女を追っていったほうがいいのかな?
 思いながらプリンにスプーンを入れたとき、
大動脈を傷つけて血が噴き出すみたいに、
下からカラメルがあふれ出てきた。
「ん」
 苦い。すべてをぶちこわしにするくらい焦げえぐい。
なんで甘いものの中にこんな苦いのを入れなきゃいけないんだろう。
 たくさんの幸せもちょっとの不幸で台無しになるように、
人生の哀愁でも語らせてるつもりなんだろうか。

 ……と思って気がついた。
 彼女の容器を見てみると、底にたまった黒い液体。
「まさかね」
 わたしはそっとつぶやいた。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1028

●彼女の瞳に映るもの

 長かった教育実習がようやく終わった。
 実習は毎日苦痛の連続。
 実習先はたいてい有名どころの学校や、
母校の卒業生から率先して受け入れるせいで、
三流大学のおれにようやく回ってきたのは
家から片道2時間以上かかる場所。
 しかも朝は部活の指導のせいで4時に起きて5時には電車にのり、
帰りは最後まで残って帰らないといけないから、
家に着くのは9時。そこから提出する記録に出来事をまとめ、
反省を書くだけで11時。次の授業のために
指導案に手を入れれば0時1時はあたりまえ。
 布団に入ればすぐ起きる時間で、朝と言えない闇の中で仕度を始める。
 学校は学校で授業もめちゃくちゃ。
どんなに用意していても、たった一人の生徒の悪ふざけで
授業がまったくすすまないこともあれば、
生徒全体との常識の差でうちのめされることもしばしばあった。
 これがおれの望んだものだったのか? これが教師だったのか。
もう無理だ。どうでもいいからやめてしまおう。
 冗談じゃなく、家に戻ってただ泣きながら思うこともあった。
授業中にさえ泣いて逃げ出したくなることもあった。
 それでも自分で反吐が出るような薄笑いを浮かべて
なんとか耐え続けた、それはそれは長い時間だった。

「せーんせっ」
 ふと呼ばれて振り返ると、教室のドアから覗き込むクラスの女の子。
「職員室に行ってもいないんだもん」
 にこにことした笑顔でそばに来ると、
「なにやってたの?」
 見上げるように訊いた。
「いや、別に。ここももう見納めだなと思って」
「そういえば終わりの会ですごく泣いてたよね」
 すこしだけからかうように言って笑う。
「いつもにこにこしてたからびっくりした」
 そう言われておれのほうがびっくりした。
「にこにこ?」
 おれが?
「うん」
 悲しくても不愉快でも顔に出すわけにも行かず、
ただ引きつる笑みしかできなかったおれが?
 もしそんな笑顔がおれにあったとしたら、それは……
「それは、きっと君がにこにこしてたからだよ」
 この子におれはどう見えていたんだろう。
これでもすこしはいい先生として、いい人間としてふるまえたなら、
多少は救われる気がした。
「先生」
「うん?」
「それ、ちょうだい?」
 指差すのは胸の名札。
 取って渡すと元気な笑顔を見せて、
「先生いなくなるって泣いてた子にあげるね」
 くるりと背を向けてドアへと向かった。
 そんな子がいたなら、言ってくれればおれだってがんばれたのに。
直接その子が来てくれたほうが嬉しかったな。
「あ、そだ」
 廊下で振り向くと、にこっと笑顔で訊ねた。
「先生って、結局なんの先生だったの?」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1027

●すぐそこにある希望

 教育実習で、母校ではない高校に行くことになった。
 担当のクラスでの自己紹介が済めば、さっそく投げられる質問。
「せんせー、彼女はぁ?」
 答えについては友人から聞いていた。
 『いない』と言うと、昔から今まで
付き合ってくれる相手もいないんだと人間性を疑われ、
『いる』というといやらしい質問が根掘り葉掘り来ると。
だからたとえいようがいまいが、その返事は――

「今は、いないですね」
「なんで別れちゃったのー?」
 くそう、昔からいなくて今もいないだけのおれにそれを訊くのか。
 そこでぐっと悲しみを押し殺してひとこと。
「まあ、人と人との付き合いには、いろいろあるってことですよ」

 それから二週間ほどののち、
そんなやりとりなんて自分でも忘れていた日のこと。
「先生、今は彼女いないんだよね?」
 放課後にめずらしく声をかけてきた女の子と話していたら、
あまり脈絡もなく訊かれた。
「うん、まあ」
 答えると、
「今はいなくても、先生ならきっとすぐいい人が見つかるよ」
 そう言ってはにかむような笑顔を見せた。
 その顔は希望とやさしさに満ちているようで。
 ――すぐ見つかるとしたら、そんな考えができる君のほうだよ。
 おれは言えない言葉を飲み込んだ。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1025

●やったもん

 ある日新聞に、元暴走族の男のはなばなしい活躍の記事が載っていた。
 その男の言葉。
「おれはかつていろいろばかをやった。けんかもしたし盗みもしたし、
警察にも世話になった。でも今は心を入れ替え、
こうして成功したんだ。今自分には価値がないと思って
自暴自棄になってる奴らに言いたい。
がんばれば誰だって成功できるんだって」
 その日の新聞の片隅、無理心中を完遂した
老いた親子の死亡記事が小さく載っていた。
 殺された男は人生をまっとうに、
はめをはずすこともなく生きてきたが、ある一日、
暴走族にからまれひどい傷を受けた。
 それがもとになり仕事を失い、新たに雇われることもなくなり。
自らでは食い扶持を稼ぐことすらできずに
年を重ねていく息子にその親は悲嘆し、
追い詰められて息子ともども命を絶ったのだった。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1024

●待ち人来たらず

 彼との待ち合わせに思いっきり遅刻してしまった。
 最初は五分遅れくらいで済むはずだったのに、
一本遅れで乗った電車は事故のせいで線路の途中で立ち往生。
こんなときに限って携帯電話は忘れちゃうし……。
「ごっめーん! 遅れちゃった」
 階段を駆け上り、駅前の彼にあやまると、
「いや、だいじょうぶ」
 いつもと変わらない、疲れた様子で手を振った。
「なんで? 怒ってないの?」
「待つのは慣れてる。それに絶対来るとわかってたからね」
「慣れてる? いつもなに待ってるの?」
 すると彼はため息をついて。
「眠り、さ」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1023

●混ぜ込まれた嘘

 うちのそばの工事現場で、なにやら伝説に残る
大地震のものらしい地割れが見つかったとニュースでやっていた。
 そこでわたしは外に出て地割れに聞いてみた。
「きみは『伝説に残る大地震のものらしい地割れ』なの?」
 すると地割れは答える。
「おれはただの『地割れ』さ。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、偉そうなおっさんどもが何人かやってきて、
おれのことを『伝説に残る大地震のものらしい』と
勝手に判断していったけどな」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1022

●月

 月が来た。赤い月。
 痛い。怖い。気持ち悪い。
 『もうこどもじゃないんだね』なんて。
 今日のわたしは昨日のわたしとはもう別のものなの?
 ……嫌だ。
 もう学校も行きたくないし、誰にも会いたくないのに。
 朝になるとおかあさんに無理やり押し出された。

「おはよ~」
「おはよ」
 学校途中にいつもの友達。
「元気ない?」
 心配そうに声をかけてくれる。
「ん~」
 いいのかな? 聞いても、平気かな?
「あ、あの……さ。あれって……もう、なった?」
「あれって?」
 それからはっとして。
「あ、もしかして?」
「……うん」
「わあ、おめでとう!」
 本当に嬉しそうにそう、言った。
「え? なんで?」
「うん?」
「だって、痛いなーとか、嫌だなーとかじゃないの?」
「うーん、それもあるけど。でも、わたしはそれよりも、
もっとすてきなことだと思うな」
 そう言う顔には輝く笑顔。
 ずっとかよわそうに見えてたのに、
わたしなんかよりよっぽど強かったんだ。
「すごいね」
 わたしは思わずつぶやいた。
「え?」
「んーん」

 そしてまた一月がたち、わたしに赤い月が来る。
 でも今度は、なんだか前より平気みたい。


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1021

●風

 うう~、うぅう~……
「う」
 目が覚めて、初めて目が覚めたとわかる夢。
 どんなものかは覚えてないけれど、
ひどく恐ろしいものだったことは覚えている。
 耳の横にあるみたいに心臓が痛くてうるさい。
 どうしてかぜをひくと嫌な夢ばっかり見るんだろう。
「トイレ……」
 なんとか起き上がるけど頭はぐらぐら、背中はぞくぞく。
廊下の冷たさが指先からじんじんとしみこんでくる。
 今日は学校をお休み。なのにこんなわたしを放っておいて、
おかあさんは仕事に行った。
「あ」
 ごがん。
 よろけた拍子にものすごい勢いで頭が壁に当たった。
 ほんとならすごく痛いんだろうなあ。

「なに、どうしたの!?」
 部屋から出てくるおねえちゃん。
「あ、起きたの? どこいくの?」
「トイレ……」
「トイレ行く? 歩ける?」
 答える前にそばに来て肩を貸してくれた。
「うわ、パジャマびしょびしょじゃない。
戻ったら体拭いて着替えなきゃね」
「ん」
 いいにおい、おねえちゃんのにおい。
顔の横できれいな黒い髪がさらりと揺れる。
「大学は?」
「今日は休みにした」
 部屋に戻るとわたしをベッドに寝かせて、
パジャマを剥がして体を拭いた。
「もう、やー」
 寒い。タオルはあったかいけど、
体のまんなかから止まらない震えが歯を鳴らす。
「待って待って。もうちょっとだから」
 急いでパジャマでくるんで布団をかけて。
しばらくしたらようやくあったかくなってきた。
「もういい? じゃ、行くからね」
「や~」
 ふとんから手を出すと、おねえちゃんは小さく笑って
わたしの手を握った。
「今日はあまえんぼだね」
 見たこともないやさしい笑顔で頭をなでた。
 今日のおねえちゃんはおねえちゃんじゃないみたい。
「ずっといてね」
「だいじょうぶだよ、ちゃんといるからゆっくり休んで」
 やっぱりだ。
 でも、こんなおねえちゃんだったら――
「今日みたいな子でいるんだったら――」
 おねえちゃんと一緒につぶやいた。
「ずっとかぜをひいててもいいなあ」

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1019

●命

 最近、いじめによる小学生・中学生の自殺が後を絶たない。
 亡くなったこどもは大々的に取り上げられるが、
そこで伝えられない、殺した方はどう思っているのだろう?
 そこでわたしは取材を開始した。
 関係者にたどり着くだけでも困難続きの中、
金を頼りになんとか同じクラスの女の子二人に話を聞くことができた。
「君たちから見て、いじめみたいなのはあった?」
 わたしの言葉に、
「ふつーにみんな言ってたよね。蛆虫とかゲロくせえとか死ねとか」
「うん、言ってた」
 わたしのおごり、高カロリーな食べ物をむさぼる二人が気楽にうなづく。
「そういえば、いっぺんすごいのあったよね」
「ああ、あれ? 掃除する前の緑のプールに突き落としたやつ?」
「そうそう! ばかみたいにぶるぶる震えてんの!」
 そう言って大口を開けて笑い合った。
「それを見てどう思った?」
 訊ねるときょとんと顔を見合わせて。
「べつにー? あたしらがなんかしてるわけじゃないし」
「結構うけたけどね」

 なぜこんなことを平気で話せるんだ? 
まったくの他人事みたいじゃないか。
「そんなことされて、本人はどう思ったんだろうね」
「さあ? へらへら笑ってたけど」
 これが本当に同じクラスの子なのか?
「そういうのがつもりにつもって、あの子は死んだんじゃないの?」
「知らない。死んだのもあたしらのせいじゃないしー」
「ねえ?」
 あまりに無責任な答えに押さえようとした怒りがにじみ出てしまった。
「君たちはあの子がいじめで死んで、なにも思わないの?」
 すると彼女たちは、
「まさか~、なんにも思わないわけないじゃん」
「だよね~」
 ほっとするわたしの耳に、二人の言葉。
「すっきりした」


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1018

●履修逃れ

 刑務所において矯正に必要な教育を受けさせずに
模範囚として退所させていたことが次々と明らかになった。
 それを問われると、ある刑務所長は言った。
「受刑者たちが早く社会に出るために必要だからやったまでで、
何一つ後ろめたいところはない。
出所したものたちには何の罪もないし、
すでに出所時期が決まっている者たちには
これが元で出所しおくれることがないよう、
寛大な処置をお願いしたい」
 これも加害者のみの権利を偏重する社会が生んだ悲しいゆがみだと、
どこかの大学教授やらいわゆる有識者やらが
もっともらしく語るだけできっと誰も罪に問われず終わるのだろう。
 わたしにできることといえば、ただため息をつくだけだった。


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

ショートショート 1017

●成分調整済社会人

「おまえが何のために生まれたとか、
おまえが何をしたいとかは一切必要ない。
誰かを生かす必要もないし、買い手側、会社側の命令に
ただ従っていればいい。そういう奴が求められてるんだ」
 そう、言われた。
 そしてわたしは個性もやる気もすべて奪われ、
どれも同じ顔のくだらないものとして市場に出されるんだ。

 成分調整済み牛乳として。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

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甘音(あまね)

Author:甘音(あまね)
めざせショートショート1050本!
いつだって全力疾走なのです。

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